#5 顔面という名の宇宙

 

ぼくは、ほかの人よりもホクロが多い。

父さんも母さんも姉ちゃんも弟もホクロが多いというわけではないため、遺伝ということでもなさそうだ。小さい頃の写真を見てもホクロはほとんど見当たらない。しかし、今や数えきれないほどの黒い点々がある。昔の人がぼくの顔面を見たら、「これはオリオンに見えないか?」、「ここら辺をつなげて北斗七星って呼ぼう。」などと盛り上がりそうである。

 

なぜ、こんなにもホクロが多くなってしまったのか。その原因は、おそらく小学校から大学までやっていた野球のせいだろう。十年以上野外でボールを投げている間、一回も日焼け止めを塗ったことがなかった。日光の蓄積はすさまじく、ホクロは年々増え続けている。明らかなインドア派となった今でも増え続けているのだ。

 

「ホクロいいなぁ」と言われることがたまにある。

顔面には大量にホクロがあるため、一般的に言われるようなセクシーなホクロ、かわいいホクロ、知的なホクロなどは取り揃えている。そういう面ではいいのかもしれないが、一番厄介なのはホクロが増え続けているということだ。この増え続ける現状を知らないから「いいなぁ」などと軽々しく言えるのである。

 

ホクロが増え続けるということは、いつこれが終わるかもわからないということだ。つまり、空き家には入居者が現れる可能性が当然にあり、最終的に満室となった場合、顔が黒いひとつの丸になってしまう。そうなれば、いくらぼくが端正な顔立ちをしていたとしても取り返しがつかないことになってしまう。


では、顔が黒いひとつの丸になってしまった場合、どうしようか。それを考えておいた方がいいだろう。先の時代の流れを読んだ者のみが生き残れるのがこの厳しい世の中だ。

「黒い丸男」になった場合、何かしらの研究対象になりそうだ。街中でそんな人を見たことがないから、きっと国や組織が放っておくわけがない。そうなると、当然どこか山奥か海の近くの研究所に連れていかれ、その中心部の地下にある、真っ白な部屋に閉じ込められるだろう。その真っ白な部屋の真ん中には机と椅子だけが置かれていて、そこで四方からカメラで監視されながらの生活になる。黒い丸男に自由は与えられない。与えられるのは、三食と実験のみだ。一か月日光を全く当てない検査とか、海の中で海水越しに日光を当て続けたらどうなるかという検査もさせられそうだ。

 

黒い丸男は仕事を失い、生活も失う。
みなさんにこれからやりたいことがあるなら、必ず日焼け止めを塗って外出することをおすすめする。研究所での生活が嫌ならば。